特集
2019. 10. 29
ボクとフクちゃんの洗濯WAR日記
大事なTシャツが“ト”に干されている!
ボクはいまパートナーの「フクちゃん」と、ノラ猫出身の「コムちゃん」の2人と1匹暮らしをしている。ボクもフクちゃんも働いているので、当然ながら家事は分担だ。
我が家の「好きな家事ランキング」はダントツで『洗濯』。次いで『フロアの掃除機かけ』、『ゴミ出し』と続く。しかし『料理』にいたっては、両者ともに「一番やりたくないランキング堂々の1位」。要するに、ふたりとも「やりたい家事と、やりたくない家事」が完全に被っているのだ。
同居して3年。家事問題ではかなりもめ続けている。いや、もめているというよりは、フクちゃんが怒り続けていると言ったほうがいいだろう。
ボクたちはふたりとも自営業で、自宅と事務所が同じなのだが、フクちゃんはさらに「フリーライター」という自由業。自由のようでいてもっとも不自由な業種の仕事をしているのだ。
「自分のタイミングでやれる家事を分担したい!」との願いで、フクちゃんは「料理以外の家事は全部やる。だから料理だけをキミ(ボクのこと)が担当してくれ」と言い続けているのだが……。実はボクは料理が「嫌い」というより、本当に「出来ない」のだ。包丁の扱いも、肉の焼け具合も、調味料の量もなにもかもがミステリーな世界なのです……と恐る恐るフクちゃんに伝えて、何度も爆発された。
現在、ボクの家事担当は「週2の掃除機がけ、ゴミ出し、食器洗い」、フクちゃんは「毎日の料理、週2回『ブラーバー』でのホコリ取り、水周りの掃除、洗濯、その他」となっている。フクちゃんの家事分担がやや多いのは、経済力の違いがあり、「キミのほうが生活費入れているから」という理由で、自ら立候補して重い足枷をしているようだ。
前置きが長くなってしまった。で、我が家の人気ナンバーワンの洗濯。この「洗濯が好き」な理由もボクとフクちゃんでは意味合いが変わる。ボクは服飾関係の仕事をしていることもあり、ファッションが大好き。Tシャツ一枚にも素材やフォルム、限定品など、こだわりまくったTシャツを集めている。だからこそこだわりの洗い方、干し方、畳み方があるのだが……。
フクちゃんはなによりも「効率第一主義」の人で、洗濯が好きな理由は「最短コース」のボタンを押し、光の速さでベランダに洗い物を干しまくる。この「時短」に命をかけているようなのだ。
「今日は洗い上がって6分で干しあげたわ……」と、不敵な笑みを浮かべ、額の汗をぬぐいながら満足そうにリビングに入ってくるフクちゃん。
そのあとこっそりベランダの洗濯物を覗くと、案の定ボクの大事なプレミアもののTシャツは「Tの字」に干されていないのだ。「あ……あれは、ほとんど“ト”の字になっとるではないか!」。ボクは慌ててベランダの物干し竿まで行った。
Tシャツ「とーちゃん……俺、かーちゃんに、襟ぐりからグイッとハンガーを入れられたよ」
ボク「マジか! 大丈夫。いまから干し直してやるからな。うん、まだ半乾きだ、間に合うぞ!」
Tシャツ「かーちゃん、俺を干す前に“パンッパンッ”しなかったから、たぶん袖口や裾がヨレてると思うよ」
ボク「ほんとだ。袖がくるまってなおかつ中に入り込んでいるじゃないか! 助けてやるからな。ちゃんとTシャツの形に干し直してやるぞ」
……と半分乾きつつある大事なTシャツをレスキューすることは、まあ日常茶飯事だ。
コラムを読む男らしい御仁はこう思うだろう。「こんな風に干してほしい。これは僕にとって大事な衣類なのだから……とフクちゃんに訴えろ!」と。
それができたら『洗濯WAR』なんてタイトルがつかないわけですよ。
「あの〜、Tシャツを干す時は襟ぐりから無理やりハンガーを入れると、襟がびよーんと伸びちゃっていやなんですよね。だから裾から丁寧にハンガーを入れてかけてほしいんです。よろしければ、袖口や襟元、裾などがクシャッとならないように、手のひらでパンパン叩いてシワを伸ばしてなんかいただけると大変ありがたいのですが、いかがでしょう」。
こんなお願い、フクちゃんには言えない。巧妙に仕掛けられているフクちゃんの心の地雷がどこにあるかわからないから。ボクは、フクちゃん地雷を何度も踏んでは、玉砕し、なんとか生き返り、そして地雷を踏む……この繰り返しの人生を歩んでいるのだ。
内弁慶のフクちゃんは、外面はものすごく良いのだが、家の中では女帝なのだ。とくに家事に関する「自分ルール」と地雷が多い。多すぎる。ボクは日々、謎のフクちゃんルールを探求しては地雷を踏んでいる。で、研鑽を積んだボクは「なにも口出ししない」という境地に至った。Tシャツがトの字に干されていたならば、「黙ってT字に直せばよいこと」。トの字のまま乾いてしまったTシャツを見つけたら、ボクが手アイロンで原型回帰させてあげればいいことなのだ。
フクちゃんがベランダで洗濯物を干したあと、こっそりお気に入りのTシャツの様子を見にいったことがある。「うん、安定のトの字に干してある」と目視したあと、素早く襟元や袖口などをパンパンと整えた。するとリビングの窓から突然フクちゃんが顔を出し「なんしよっと」と声をかけてきたときは、飛び上がらんばかりに驚いた。「いや、あの、ちょっとTシャツがよれていたから直しただけ」とボク。「ふふん。ちゃんとしてるねー」と不敵な笑みを浮かべてフクちゃんは顔を引っ込めた。
フクちゃんルールには「自分(フクちゃん)作業にケチをつけられても地雷は爆発しない」ようだ。「フクちゃんにそれを要求しなければいい」ということなのだろう。……危ない危ない。
ボクとフクちゃんと、ときどきコムとの家事WARは、続くのであった。
袖が中に入ったまま干されているボクの長袖T……。
ライター
青木じゅん
「社員は自分ひとり!」のお気楽な会社経営者。クラシックバイクをこよなく愛し、愛車『Norton』で全国津々浦々ツーリングするのが趣味。外ではカッコつけてますが、家では同居人フクちゃん・コムちゃんのしもべです。